アンチェルのストラヴィンスキー『春の祭典』

指揮はカレル・アンチェル、管弦楽はチェコ・フィルハーモニー管弦楽団。 1963年のセッション録音。 アンチェルは、1908年チェコ出身の指揮者。ユダヤ系。 1950〜1968年にかけて、同オーケストラの首席指揮者を務めた。 1968年に亡命し、1973年にカナダで病没。 :::::::::: クリアで見通しの良い響き、明解なテクスチュア。オーケストラの機動性は予想以上にハイレベル。 各パートは均等に近いバランスで、軽快かつ俊敏。ティンパニなんかもかろやかにタイト。 オーケストラのサウンド自体は、研ぎ澄まされた感触。ただし、ホールの音響特性や、響きを多めに取り込んだ録音のせいで、痩せた音楽にはなっていない。 盛り上がる場面では、響きの圧力を高めるより、めくるめくアンサンブルと歯切れの良さで高揚させる。 その一方で、個々のパートの歌わせ方は、こぶしを回したり音を震わせたりして、生気を表出させる。このあたりは、アンチェルの嗜好というより、オーケストラの自発性かもしれないが。 また、全体としては薄味だけど、場面毎の空気感を、さりげなく、しかし確実に伝えてくれる。 :::::::::: 演奏技術は目を見張るレベルだけど、洗練された機能美みたいな質感とはちょっと違う。 アンチェルは、オーケストラに高度なアンサンブルを要求しているけれど、均一に磨かれたスタイリッシュな美しさより、生々しさとか生気とかに軸足を置いている。