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1月, 2015の投稿を表示しています

ヴァントのブラームス交響曲第3番(1983年録音)

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ヴァントの、この交響曲の録音は3つあるようで、今回採り上げるのは、2回目のもの。セッション録音。 現時点での、わたしの中でのヴァントの存在感は、ある面では最高レベルの手腕の持ち主だけど、キャパシティの狭い指揮者というところ。 ここでいうキャパシティの狭さというのは、ブルックナーはすばらしいが、他の作曲家との相性は・・・というような意味ではない。 誰の作品を演奏するにせよ、ヴァントは"感情表現"をできない、あるいはやらない指揮者だ。 そのために、ドイツ・ロマン派の演奏を聴いていると、何かが足りない気分にさせられることが多い。 手っ取り早く"感情表現"という言葉遣いをしたけれど、もう少し噛み砕いていうと、場面毎の色調の変化のバリエーションが狭いということ。これの変化が多彩だと、感情表現のように感じられることが多いので、あえて"感情表現"と言ってみた。 その結果、ヴァントのこのブラームスは、楽章同士のキャラの対比が弱くなっている。たとえば、第2交響曲は、演奏によっては楽章ごとの色合いがはっきりと異なるけれど、ヴァントの演奏ではそれが乏しい。 もちろん、各交響曲の対比についても同じことが言える。 大指揮者、スター指揮者は、強烈な持ち味を持つことが多いので、これと同じ現象が起こりやすい、と思う。 ただ、ヴァントの場合、個性の強さとは別に、上で"感情表現"と述べた種類の表現力が乏しく感じられるところは事情が異なる、ような気がする。 同じ北ドイツ放送交響楽団の音源ということなら、シュミット=イッセルシュテットが指揮した同じ曲の録音を聴くと、あの演奏なりの独自の味わいはあるけれど、同時にわたしがこの交響曲について知っている要素は一通り網羅されている。 もし、この交響曲を知るために、1つの音源しか聴くことができない、みたいな状況に置かれたとしたら、 楽曲についてより多くの情報を得られるのはシュミット=イッセルシュテットの方だと思う。 もちろん、ヴァントの流儀だからこそ得られるものもある。作品書法の鮮明さとしては最高の純度に到達していると思う。 ヴァントはすべて声部を精緻に浮き上がらせる。それだけなら珍しいやり方ではないけれど、彼のは洗練度が違う。精緻なたた...

シャイー、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスOのブラームス交響曲第3番

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現代のスター指揮者たちは、概ねサウンド作りの才が秀でていると思うのだけど、シャイーは特に感心させられるひとり。 綺麗だとか、センスが良いというにとどまらず、創造性を感じる。こういうタイプの美音があるのだなぁ~、と感じ入ってしまう。 この全集録音は2012-13年だけど、シャイーは、1990年代の初め頃に、コンセルトヘボウoと、ブラームスの交響曲全集を録音している。 旧録音でも響きの色彩の鮮やかさに感銘を受けたけれど、新録音とは響きの質が違っているように聞こえる。 質感は異なるけれど、どちらも香ばしいサウンド。 ブーレーズのように、異なるオーケストラを指揮しても、ブーレーズ的美音を響かせる達人がいる。 シャイーだってそいう芸当はできるのかもしれないけれど、そういうことよりも、自分の感性とオーケストラの持ち味が合わさったからこそ、の響きを追求しているような気がする。 この音源の響きは、艶やかでカラフルでありながら、そこに落ち着いた色合いの渋みと、柔らかい厚みが合わさって、特有の心地良さがある。 シャイーは、どちらかと言えば、各パートの表情を描き出しながら、それらを編み上げて全体像を作り出しているようなやり方。 弦とか木管は言うに及ばず、大きな音のでる金管やティンパニあたりも、他のパートを圧することなく、スリムに響かせて、他のパートと絡み合わせる感じ。絡み合わせる中で、活き活きとした多彩な表情を作り上げていく。 軽快でキビキビとした身のこなしが、活き活きとして多彩な印象をいっそう強めているけれど、そんな中にも、均整のとれた美しさみたいなものがある。 こういうやり方は、巧緻な作りと均衡美の優先度が高いことの裏返しとして、音楽のダイナミックな息遣いとか、大きなうねりみたいなものを演出しにくくなる、たぶん。 内面のドラマ、みたいな方向でブラームスの交響曲を楽しみたい人にとっては、物足りなさが残るかもしれない。 そもそも、ブラームスの交響曲は、何らかのドラマの表象なのか。それとも、精巧に編み上げられた、管弦楽法の工芸品なのか。 わたしは、どちらの性格も兼ね備えていると思っている。 だから、シャイーのやっていることが、楽曲の素晴らしさを際立たせているところもあれば、喰い足りない面も無きにしも非ず。 ただし、演奏者としてのシャイーに不...

ティーレマンによるブラームス交響曲第2番(2013年)

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好感度  ■■■■ ■ ティーレマンとシュターツカペレ・ドレスデンのブラームス交響曲全集から、交響曲第2番を聴いた。2013年のライブ録音。 この全集は2012〜2013年に録音され、いずれもライブ録音。 ちなみに、ティーレマンは、2012年からこのオーケストラの 首席指揮者に就いている 。 * * * * * 余裕のあるスケールの大きな枠組みの中で、オーケストレーションを解きほぐして、その一つ一つをしっとりと艷やかに響かせている。 色合いの変化が鮮やかで、豊かな表現力。ただし、荒々しい音、濁った音は皆無。あくまでも、響きの洗練を追求している。 こうしたアプローチは、今どき珍しくないけれど、名門オーケストラの持ち味があいまって、落ち着いた色合いの艶は好ましい。 テンポを自在に伸縮させて、じっくりと濃やかに聴かせる。前のめりに煽って、息苦しくすることはない。 思い入れて粘るというより、冷静に磨き上げ構築していく感じなので、もたれることはない。 * * * * * 音の出し方は軽めで、量感もほどほど。しかし、立体的かつスケール豊かな造形と、濃やかな表現力のおかげで、押し出しは立派。 第1〜3楽章が、ジックリと描きあげられるのに対して、終楽章はオーケストラの上手さ機動力を引き出して、胸のすくような仕上がり。 精細感や響きの艶を保ったままで、壮快に畳み掛ける。お見事。 * * * * * 指揮者の美意識が強く出た演奏なので、好き嫌いは分かれそうだけど、演奏様式には一貫性があるし、堂々として、巧み。