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グァルネリ四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲第15番

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好感度  ■■ ■ ■ ■ 1988年のセッション録音。2度目の全集から。 グァルネリ四重奏団は、米国のグループで、1964年から2009年まで活動。 うち2001年までは、同じメンバーで活動していた。 1960年代後半と1990年前後に、2回ベートーヴェンの全集を録音している。 :::::::::: 楽曲の書法を、彫り深く、立体的に描き出す。 個々のパートは対等なバランスで、それぞれが伸びやかに柔らかく歌い回しながら、連携して作品を構築する。 肩の力を抜いたような、柔軟な音の出し方。耳あたりは柔らかい。 とは言え、感覚的な心地よさとか気分に浸るような演奏ではない。構造とか書法を描きあげることに軸足が置かれているせいだろう。 :::::::::: 全曲の白眉である第三楽章は19分以上もかけてじっくり演奏されている。 じっくりとして克明だけど、今ひとつ楽曲に浸れない。 堂々とした歩調は、演奏様式としては一貫しているけれど、この楽章に関しては武骨に聴こえる。個々の奏者は神経の通った演奏ぶりだけど、アンサンブル全体で息遣く感じが乏しい。 演奏のクォリティは高いけれど、作曲者はもう一段高い緊密さを要求しているような気がする。

ロストロポーヴィチによるバッハの無伴奏チェロ組曲

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好感度  ■■ ■ ■ ■ 1991年のセッション録音。 1927年生まれのロストロポーヴィチが、60代中盤の頃の録音。 この高名なチェロ奏者としては唯一のセッション録音。満を持しての録音なのだろう。 彼の同曲の音源としては、1955年のライブ録音があるようだ。 :::::::::: ロストロポーヴィチへの個人的な先入観から、起伏の大きなダイナミックな演奏を予想したけれど、そういう演奏ではなかった。 自分らしさを抑えているわけではないけれど、ことさらにそこを押し出すことはなく、楽曲の持ち味と自分の音楽性を協調させるようなアプローチ。 派手さは乏しく、むしろ親密さを感じさせる表現。 良くも悪くもで面白みはほどほど。 というか、演奏者自身、面白がることより、じっくりと味わうことを聴き手に求めている。 これがこの人の結論なのか、年齢なりの落ち着きということなのか、判断できないけれど。 :::::::::: それでも、相対的には、構造とか様式観みたいなものより、情緒性とか気分に重きが置かれている。 テンポの動かし方、音量の設定、歌い回しとかに目を向けると、演奏者の恣意(あるいは思い入れ)が色濃い。求める効果を実現するために型を崩す。 そういう意味では、ロストロポーヴィチの芸を聴く演奏になっている。

リン・ハレルによるバッハの無伴奏チェロ組曲

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好感度 ■■ ■ ■ ■ 1982〜1984年のセッション録音。 彼は1944年ニューヨーク生まれのチェロ奏者。これは30代終盤から40歳にかけての録音。 どうやらハレルは、この曲を再録音していないようだ。 :::::::::: 乾き気味の響き。艶とか潤い成分は乏しい。そのせいか、良し悪しを別にして、甘味成分ず乏しい。好みが分かれそう。 フレージングとかリズムの処理は清潔。音のつながりとか流れはスムーズだけど、音を引き伸ばしたり、粘らせたり、みたいなことはない。 細部の表現は丁寧だけど、ことさらに自己主張することはない。 テンポの良い曲は、高度な技術の支えもあって、歯切れよくてスムーズ。 緩やかな曲では、細やかなニュアンスが浮き彫りにされる。 表現自体は軽快でスムーズだけど、造形感はかっちりとして大柄。 大柄な紳士(?)みたいな相貌は、個人的には好感。

ハインリヒ・シフによるバッハの無伴奏チェロ組曲

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好感度  ■■ ■ ■ ■ 1984年のセッション録音。 ハインリヒ・シフは、1951年オーストリア出身。2016年に亡くなった。 チェロ奏者としての他に、指揮者としても活動していたらしい。 この音源は、シフが30代前半頃の録音。 :::::::::: とりあえず、演奏技術が高い。速めのキビキビとした足取りでありながら、力強さも併せ持ち、腰の強い表現。 演奏技術を前面に出しているわけではなく、簡潔ながら、曲の息遣いや細かなニュアンスを抜かり無くすくい上げている。 表現としては引き締まっているけれど、響きはほどほどにコクとか厚みがある。このあたりも程よいバランス。 全体としては、楽曲の持ち味を率直に端的に聴かせる好演。聴手の好みとか作品観との兼ね合いは別にして、とてもクォリティが高い。 :::::::::: もっとじっくりと巧妙に表現することで、この組曲集は、より奥行きのある表情を帯びる。 その意味で、この音源に楽曲のポテンシャルが洗いざらい現れているとは思わない。 とは言え、ここで聴かれる、強靭な演奏技術に裏付けられた活気には、これはこれで高い価値がある。