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8月, 2018の投稿を表示しています

ジャン=ギアン・ケラスによるバッハの無伴奏チェロ組曲

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好感度 ■■ ■■■ ジャン=ギアン・ケラスの演奏。2007年のセッション録音。 ケラスは、1967年カナダ出身。現在はフランス国籍のようだ。 けっこうな数のレコーディングをおこなっているけれど、同曲の録音はこれだけのよう。 :::::::::: 超絶技巧。ハッとするようなスムーズさ、軽快さで演奏されている。 しかも、響きが磨かれている。シットリと艶がかっている。色合いの変化が、細やかに、適確にコントロールされている。 運動性や技巧のキレが、熱気とか圧力ではなく、クールな洗練につながっている。 活気のある曲は、かなり速いテンポで軽快に演奏される。一方、緩やかな曲は、落ち着いたテンポ設定だけど、粘り気はほとんどなく、細身でクール。 要するに、腕が立ってセンスも良い。技がキレるだけでなく、表現力にも広がりがある。そしてスタイリッシュ。カッコよくて卒がない。 :::::::::: 活気のある曲を、軽快に颯爽とやっていようと、細部の表情にまで行き届いている。 それでも、聴きどころのいくつかが、あっさりと、そそくさと通り過ぎていく感じで、喰い足りなさが残った。

サロネンによるベートーヴェン交響曲第7番

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好感度 ■■■ ■ ■ オンライン販売限定の“DG CONCERTS”シリーズの音源。 エサ=ペッカ・サロネン指揮、ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団の演奏。 2006年頃のライブ録音。 サロネンは、1992-2009年にかけて、同オーケストラの音楽監督を務めた。 :::::::::: 造形は整っているけれど、アンサンブルは覇気があってエネルギッシュ。 金管をバリバリ鳴らすような盛り上げ方ではなく、怜悧な質感のヴァイオリンが主導しながら、バイタリティとか瞬発力でもって、高揚を生み出している。 弦を主体とした厚みのある音響は手堅いけれど、サウンドのクールな質感とか高音の煌めきはこの指揮者特有の味。 オーケストラの持ち味が相まって、華やかな印象だけど、練られた演奏スタイル。 アンサンブルの精度はそれなりに高そうだけど、それぞれのパートの響きが被り合うので、細やかに粒立つような精密さはない。そういう種類の凄みはない。 とは言え、ディテールの表情を楽しむことはできる。 結果的には、細部の彫琢と全体としての厚みとが程よくバランスしている。 :::::::::: 特に終楽章の盛り上げはアッパレと感じる。オーケストラの機動力とか瞬発力を存分に引き出して、爽快に畳み掛ける。カッコよいし、見事な統率力。 弦とかディンパニの際立たせ方など解釈上の工夫も効果を発揮しているけれど、鍛えられたアンサンブルがベースにあるので、確かな手応えがある。

イタリア四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲第15番

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好感度  ■■■ ■■ 1967年のセッション録音。全集から。 イタリア四重奏団は、1945年に結成され1980年に解散した。ヴィオラ以外は、メンバーが固定していた。 ベートーヴェンの全集は、1967年から1975年にかけて録音された。 グループ名の通りイタリアに拠点を置くものの、レコーディングされたレパートリーのほとんどは、独墺系の楽曲。 :::::::::: 楽曲に実直に向き合って、楽曲そのものに語らせようというアプローチ。作品の捉え方は素直で、調和を旨とした質の高いアンサンブルが繰り広げられる。 このグループの特質は、これみよがしではなく、時間をかけて熟成されたもとして、伝わってくる。あからさまではないけれど、深く行き渡っている。 各パートの響きは明るくて柔らかくて艷やか。 造形を一切歪めないけれど、その範囲内でそれぞれがしなやかに歌わせる。端正でありつつ、コクと粘りがある。 四者のバランスは均等に近い。個々のパートは、埋没することはないけれど、出過ぎることもなく、協調して、この団体特有の調和した豊かな響きを生み出している。 また、強弱の幅はあるけれど、刺激的なまでの激しさや、消え入るような弱音はマレ。 音楽は、常に、明朗でふくよかに響いて、心地よい。反面、陰影めいた要素は乏しい。 :::::::::: この団体の個性を意識させられるのが、全曲の中核をなす第三楽章。19分30秒以上かけて、じっくりと演奏されている。 作曲者による「 病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌 」という副題とは裏腹に、ひたすら明朗で豊かに仕上がっている。 個々の奏者は、気持ちを込めて入念に楽器を歌わせてくるけれど、合奏全体としては、感情表現より、調和したアンサンブルの美観が印象に残る。 このあたりで好悪が分かれそう。