投稿

2025の投稿を表示しています

ケンペによるワーグナー楽劇『ワルキューレ』(1961年バイロイト音楽祭)

イメージ
【演奏のプロフィール】 ルドルフ・ケンペは、 1960〜1963年に、バイロイト音楽祭で 『ニーベルングの指環』を指揮。 ここでとりあげる音源は1961年のもの。 バイエルン放送所蔵のオリジナル・テープからのマスタリング。モノラル録音。楽曲を堪能できる音質ではないけれど、演奏者がやっていることはある程度わかりそうな水準。 【感想】 バイロイト音楽祭では、1958年まで3年連続でクナッパーツブッシュが 『ニーベルングの指環』を指揮。1959年はお休みで、1960年からケンペに交代。 ワーグナーの楽劇は、この手の音楽としては管弦楽が雄弁だし、管弦楽だけの聞かせどころも多い。だから、管弦楽の主張が強いクナッパーツブッシュのようなやり方で、映えて聞こえるのだと思う。 しかし、ケンペのアプローチはその逆を行ってるように聞こえる。管弦楽と歌手のバランスが、完全に普通のオペラ。管弦楽は伴奏に徹している。歌を邪魔しないように、注意深くコントロールされている。 ワルキューレの騎行の場面でも、歌があるときは管弦楽はそれを支え、寄り添う感じ。歌が切れたときには、ダイナミックに切り込むけれど、歌が入る直前にササッと引いてしまう。管弦楽だけの場面でも、まったくもったいぶらないで、簡潔で歯切よい。 クナッパーツブッシュだって、歌を邪魔することはなかったけれど、歌唱を含めて全体を彼が支配していた。全体として、クナッパーツブッシュならではの音楽になっていた。 ケンペの方は、歌手たちと協調しながら音楽を作り上げていく感じが強い。クナッパーツブッシュに比べるとかなり控えめに聞こえる。 ケンペの流儀は、押し出しの良い立派なワーグーナーを聞きたい人たちには、物足りないかもしれない。しかし、ケンペなりのアプローチで、素晴らしく質の高い演奏を繰り広げていると思う。 たとえば、重苦しい第2幕では、管弦楽が歌唱に着実に奥行きをもたらしていて、シリアスな心理ドラマに引き込まれる。 管弦楽に注目して聞くと、スムーズに流れながら、その中で細やかな表現が繰り広げられていく感じ。古いモノラル録音なので聞き分け切れている自信はないけれど、精密感の高いアンサンブルのように聞こえる。 鋭敏で瞬発力に富んでいるけれど、円滑な進行を突き破ることはないので、トゲトゲしさやゴツゴツ感はない。聞き手の好みに合うかはともかく、洗練度は高い。...

クナッパーツブッシュによるワーグナー楽劇『ワルキューレ』(1956年バイロイトでのライブ)

イメージ
  【演奏のプロフィール】 クナッパーツブッシュは1951年、1956年、1957年、1958年とバイロイト音楽祭で『ニーベルングの指環』を上演。 これは1956年の録音(バイエルン放送協会所有の音源)。 【感想】 1956年、1957年、1958年のリングの全曲録音が手元にあるけれど、その中では音質が最も良い。 それでも、DECCAのセッション録音で聞けるクナッパーツブッシュの精妙な芸を味わうのは難しい。まあ、楽曲を鑑賞できる水準にはあるけれど。 ときどきこの音源のクナッパーツブッシュの指揮ぶりを礼賛するレビューを目にするけれど、ちょっと怪しいかも。この指揮者の堂々たる芸風(の片鱗)は味わえるけれど、凄演のたぐいではないと思う。「昔クナッパーツブッシュという偉い指揮者がいて、こんな立派な演奏をやっていました」という事実を確認できる記録、みたいな位置づけになると思う。 クナッパーツブッシュは、歌唱陣と一体になって燃え上がるとかではなく、冷静着実に作品の世界観を構築している感じ。全編骨太な表現なので(ORFEOによる味付けかも?)、薄かったり弱く感じることはないけれど、鬼気迫るような感じはない。 放送局の録り方のせいもあるのだろうけど、クナッパーツブッシュは常に歌手たちを包み込むように管弦楽を鳴らしている。厚みを感じさせるサウンドだけど、歌手を押しつぶすことはない。フルトヴェングラーあたりだと、ときどきモリモリと高まる場面で歌唱を蹴散らしたりするのだけれど、クナッパーツブッシュにそれはない。たぶん、クナッパーツブッシュの方が(オペラの振り方としては)正統なんだと思う。 フルトヴェングラーの演奏に限らず、ワーグナーの楽劇では、管弦楽が雄弁に語り手として振る舞うことが多いと思う。まあ、ワーグナーの管弦楽があまりに素晴らしいので、指揮者はついついやりすぎてしまうのかもしれない(妄想です)。 そういうのと比べると、クナッパーツブッシュは決してやりすぎない感じ。たぶん、歌唱も含めたサウンドが常に念頭にあって、管弦楽は作品の世界観を体現する役割に徹している感じ。だからこそ、映像がなくても、聞いているうちに荒涼とした空間が広がっているような気がしてくる。 そして、クナッパーツブッシュの意図がなんとなくでもつかめてくると、聞き手の方にも安心感が芽生えて、任せたい気分になってく...