ショルティのワーグナー楽劇『パルジファル』
ゲオルグ・ショルティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団他。
作り物めいた質のサウンドで、特にヘッドホンで聴くとイタイ。ただし鮮明。

ショルティは、『ニーベルングの指環』(1958〜1965)、『トリスタンとイゾルデ』(1960)、『タンホイザー』(1970)、『パルシファル』(1971〜1972)、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(1975)、『ローエングリン』(1985)を、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とセッション録音している。
『さまよえるオランダ人』(1976)のみシカゴ交響楽団と録音。
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ショルティの管弦楽には独特のたたずまいがある。
オーケストラと歌手・合唱による響きの全体を聴かせるというより、管弦楽のサウンドについて確固とした美意識があって、そこは妥協せず貫徹している。
個々のパートの明解な輪郭と、クリアな響き。舞台上で何が起こっていようと、歌手たちがどう歌っていようと、管弦楽の質感はブレない。
とは言え、伴奏として立派に成立している。歌手や合唱を無視しているわけではない。ダッイナミックな場面でも、歌手を威圧することはなく、きっちりエスコートしている。
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あいまいさのない明解な表情と、透明度の高いサウンドが基調だけど、強弱とか剛柔のコントラストが強めなのは、ショルティらしさだろう。
ただし、1950~60年代の録音に比べると落ち着きが加わっている。そして、こうした変化は、この楽劇にとってプラスに働いている。
激しい場面でも濁ったり刺々しくなるほどは攻めない。攻撃的なまでのダイナミズムは影を潜めている。
とは言え、他の指揮者に比べるとコントラストは強めなので、凛とした緊張感や骨格の逞しさとして、演奏を特徴づけている。
また、ベースとなっている落ち着いた歩調も堂に入っている。
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ただ、響きの質感は全編通して一貫しているので、光と影の対比みたいなものは乏しい。
たとえば第二幕に入っても、明解さクリアさはそのまま維持されており、暗い調子を帯びるというようなことはない。
第三幕の終盤でも、聖なる法悦みたいな調子を帯びることなく、むしろ冴え冴えと響く。
こういう劇音楽を指揮するには、ショルティの音楽性はいささか剛直なのだろう。
それでも、アンサンブルの洗練度と精度は超一流なので、楽しめるし聴きごたえもある。
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歌手のことはよくわからないが、何の不満もない。というか、美声の持ち主がそろっていて、磨かれた管弦楽との相乗効果が聴きモノ。
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