ショルティによるマーラー交響曲第8番『千人の交響曲』
ゲオルク・ショルティ指揮シカゴ交響楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団、ウィーン楽友協会合唱団他。
1971年のスタジオ録音。

ショルティ(1912年生、1997年没)は、ハンガリー出身の指揮者。1969~1991年の長期にわたり、シカゴ交響楽団の音楽監督を務めた。
ショルティは、この録音をもって交響曲全集をいったん完成させたが、コンセルトヘボウ管弦楽団及びロンドン交響楽団と録音した曲を、のちにシカゴ交響楽団と再録音している。
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現代でも気軽に商業録音できる曲ではないだろうけれど、音源の数はかなり多くなってる。特に録音のクォリティが重要な曲だけに、今さらこの音源を聴く価値はあるのだろうか?
聴いてみると、その価値は十分以上にありそう。
まず録音のクォリティだけど、巨大な編成の演奏陣をやや距離を置いて俯瞰するような録り方なので、音の洪水が押し寄せる感じではないけれど、サウンドイメージは明解で、広がりとか奥行きも伝わってくる(立派なリスニング環境で再生すれば、違った風に聴こえるかもですが)。
ただし、場面によっては演奏空間がいささか人工的に感じられる。響きをクリアに保つために、手を加えている感じ。DECCAの録音ではありがちだけど。
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演奏の中で、この音源のあきらかな強みと思われるのが、独唱陣の質の高さ。
独唱者数が多くかつ求められるレベルが高いために、全員に満足することはまれ。個人的に、この曲の演奏を聴いて感じる不満の半分以上は、独唱者に対する違和感だったりする。
その点で、この音源は満足度が高い。声の質は様々だが、いずれも透明感があって、伸びやかな美声。
管弦楽ともよくシンクロしている。管弦楽も、独唱陣の歌唱も、透明で清潔だけど、強弱のメリハリは強め。そういうショルティ様式が徹底されている。
曲が曲だけに、「オヤッ!?」という部分が皆無ではないけれど、素晴らしい仕上がりだと思う。
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わたしの記憶では、ショルティは、1970年代に入ると、50~60年代のような過激なダイナミズムを控えるようになった。
この音源も例外ではない。力強い場面では歯切れよく畳みかけるけれど、神経に障るような音はシャットアウトされている。
結果として、透明なサウンド、機能美、端正な造形といった様式美が徹底されている。
反面、多彩さとか陶酔感とか情熱みたいな要素は乏しいので、好みは分かれるかもしれない。
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独唱陣や管弦楽の足を引っ張っているのが合唱陣。他の演奏と比べると、不出来というほどではないかもだけど、独唱陣や管弦楽と同等のレベルにあるとは言いがたい。
ところどころでモヤッたり濁ったりして響きの純度を損ね、演奏効果を減殺している。
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