クレンペラーによるブルックナー交響曲第5番(1968)

1968年ライブ録音。演奏当時、クレンペラーは83歳。
彼は、この前年に、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団と、同曲をセッション録音している。
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作品の捉え方は、前年のセッション録音と共通しているけれど、クレンペラーなりに、聴衆の嗜好やオーケストラの持ち味に合わせている印象。動機によって、テンポの設定を切り替えたり、歌い回しに緩急を施したり。
頑固者というイメージが強い指揮者だけど、欧米のオーケストラを転々としていた期間が長かっただけに、このくらいの融通は利くのだろう。
セッション録音の堅固な芸風に抵抗を感じる聴き手には、こちらの方が近づきやすいかも。
ただ、クレンペラーらしさ重視で聴くと、やや崩し気味の演奏。
さすがに、1950年代のライブ録音のような精悍さはない。ただ、演奏当時も、耳や統率力は健在だったようで、客演だけど、この指揮者らしい明解なアーティキュレーションを引き出している。
各パートの輪郭をクッキリと響かせて、明確なコントラストで彫り深く歌い回す。
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クレンペラーの演奏スタイルは理知的、明解、的確。オーケストラを煽るようなやり方ではない。
ただ、興がのると、強めのリズムの刻みとか彫りが深くて芯の通ったフレージングのせいか、演奏の外観とは裏腹な、濃い表情が溢れ出してくる。
楽曲に理知的にアプローチしながら、作品の構造や書法だけでなく、情緒的な部分まで如実に浮かび上がらせる、 クレンペラーの芸風を伝える興味深い記録。
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