ケーゲルによる、ブルックナーの交響曲第5番

曲調の変化に合わせてテンポは柔軟に変えられるけれど、全体として、もったいぶらず、推進力を感じさせる。
サウンドは、重厚感や壮大さより、明晰さが重視され、ときに繊細さが際立つ。
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こういうやり方なので、終楽章あたりは、他の演奏と比べると、快速かつ軽量級となる。
この終楽章は、凝った仕組みだし、細部に目をやると変化に富んでいる。そのあたりを強調(?)するような演奏で聴くと、山あり谷ありの大掛かりなドラマのように聴こえなくもない。
ただ、この演奏のように、高い推進力でもって演奏されると、一定の調子で突き進んでいく印象。多少、あっけなく感じられる。
だからと言って、ケーゲルのようなやり方が劣っているとは、一概には言えない。ケーゲルのやり方だと、終楽章のウェイトが軽く感じられて、この楽章の聴き応えに限ると、評価が分かれるかもしれない。でも、全四楽章のバランスという意味では、この方が良いと思う。
両端楽章を重厚壮大にやりすぎると、第二楽章のおさまりが微妙になってしまう。この楽章は、ブルックナーの書いた緩徐楽章の中で、目立って簡潔に作られているから。
第二楽章が不出来なわけではなく、全四楽章が適切なバランスで作曲されているとするならば、ケーゲルのような演奏設計の方が、ブルックナーの意図に近いような気がする。
ただ、どのやり方を魅力的と感じるかは、聴き手の自由だけど。
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楽曲の繊細な美しさを、クールな質感で描き出した第二楽章が印象的。
高音域優位の、透明度の高い響きで、息の長い旋律を次々と流れるように美しく歌い上げていく。演奏者の美意識を感じさせる。
オーケストラの響きが心地よくて、ケーゲルの美意識を体現できている感じ。
第三楽章は、推進力に溢れながらも、曲調の変化に機敏に反応できていて、小気味がいい。技巧的な管弦楽法を明解にしながら、変化の妙で楽しませてくれる。
オーケストラの上手さと柔軟な表現力に感心。
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両端楽章は、他の演奏と比べたときに、足取りの軽さとか響きの薄さがいっそう際立つような表現。好き嫌いは分かれそうな気がするけれど、上のとおり、作品解釈としては納得できる。
第一楽章は、もともと重苦しくて渋い曲調の楽章なので、明解で切れの良いケーゲルの手さばきは気持ちいい。曲調の変化に合わせた表現の切り替えは的確だし、オーケストラのアンサンブルはすこぶる歯切れがいい。
もちろん終楽章ももったいぶることなく、きびきびと畳み掛けてくる。中間のフーガは、細やかに表情が付けられ、オーケストラは精度を感じさせるアンサンブルで応えているけれど、足早な進行だし、彫りの深さは無い。後半に入ると、クールなトーンを保ったまま、激しさを増し、コーダになだれ込む。
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