サイモン・ラトルによるワーグナー楽劇『ワルキューレ』

サイモン・ラトル指揮バイエルン放送交響楽団他。 2019年1月~2月の、コンサート形式での上演を編集した音源。

ラトルは、このオーケストラと2015年に『ラインの黄金』を録音している。4年ぶりというゆったりペース。
ちなみに、ヴォータン等配役が一部変わっている。

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オーケストラから、精妙で機能的なアンサンブルを引き出しているけれど、柔らかい音の出し方、粘らないフレージング、明るく開放的なサウンド、ゆとりのある足取りなどがあいまって、明朗で豊かな『ワルキューレ』が構築されている。

たとえば各幕の序奏からして、豊かさ柔らかさが優勢で、切迫感めいたものは乏しい。
全曲通して、ワーグナーのオーケストレーションを、豊かに美しく響かせることに、重きが置かれている。
無限旋律的で柔和なサウンドは心地よく、神話的な物語というより、妖精の物語のようにも聴こえる。

管弦楽が歌手たちを威圧する場面は皆無で、柔らかく包み込み、自在に引き立てている。
だから、歌手たちはことさらに力むことなく、余裕をもって表現している。聴く方も、いつになく落ち着いて向き合うことができる。

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ラトルは、一般的にワーグナー音楽の特質と言えそうな劇性や説明的な表現(=ライトモティーフの強調)を排除している。

独自の『ワルキューレ』像を提示すべくこのようにやっているのか、それとも音楽的な嗜好の発露に過ぎないのか、これだけでは判断できない。

このやり方に共感できるかはともかく、その音楽の上質感や洗練度は、とてつもなく高い。
いくらオーケストラが高性能とは言え、編成の大きなオーケストラを精妙に響かせるラトルの手腕は、比類ないレベルにあると思える。

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当代の優れたワーグナー歌手たちが起用されているようだ。

ブリュンヒルデを歌うテオリンは、たまに鼻にかかって音程が揺れるように聴こえるのが気になったし、ヴォータンを演じるラザフォードは、そのテオリンに押され気味だったりするけれど、他の歌手たちを含めて大きな不満はない。

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