レーピンによるブラームスのヴァイオリン協奏曲

2008年8月のセッション録音。 ヴァイオリン独奏はヴァディム・レーピン。伴奏はリッカルド・シャイー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団。 レーピンは1971年ロシア出身。 * * * * * ここでのレーピンは、すごいポテンシャルを聴かせる。技巧として優れているというにとどまらず、それが表現力に昇華されている。 全曲通して一貫した調子を保ちながら、絶えず細やかに表情を変転させていく。その細やかさ加減が、他のヴァイオリニストよりレベルが高くて、繊細な震えとかおののきみたいなニュアンスまで、完全なコントロールの下で繰り出すことができる。変幻自在の表現力だ。 だからと言って、この曲の演奏として満足できるかというと、難しいところ。細部の作り込みの徹底した細やかさの反面、マクロ的な起伏とかうねりが見えてこない。 そのために、一歩ひいて演奏全体を俯瞰すると、いささか平板に聴こえてしまう。 起承転結みたいな展開無しで、ひたすらに精巧な部分が連なる、みたいな音楽になっている。 この演奏家が目指しているものと、わたしが期待していることにズレがあるのだろう。 * * * * * シャイーの管弦楽は、自らの美意識を響きとして体現できてしまう水準に達していて、素晴らしい。全体としては渋めの落ち着いたサウンドながら、色彩感が豊か。また、アンサンブルは軽快かつ鋭敏だけど、全体の響きはほどほどに恰幅が良い。 一昔前に比べると、けっこう腰の軽いカラフルなブラームスだけど、上質感は高い。