小澤とベルリン・フィルによるチャイコフスキー交響曲第5番

ちなみに、小澤は1977年にボストン交響楽団と同曲を録音している。
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日本人指揮者として、西洋の伝統的な音楽にどうアプローチしていくかというのは、この指揮者にとって重要なテーマだったと思う。
結果として、サウンドに対する鋭敏な感覚とオーケストラに対する統率力という、ごくまっとうな道を選んだ、とわたしは捉えている。
選んだというか、指揮者としての力量に恵まれていた故に、まっとうなクォリティ勝負に出られたというか。
明解で平明な響きとダイナミズムの両立が、高い次元で実現された演奏様式。
成し遂げることは難しいけれど、わかりやすいアプローチではある。
この音源は、そんな小澤と、機動力と馬力と色彩美を併せ持つベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との共演だから、期待は高まる。
しかし、聴いての印象は、けっこうがっかり。
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ダイナミックな表現は控えめ、というより、巨匠然とした腰の据わった演奏。
煽ることよりも、これまで培ったものを踏まえながら、より濃やかな表出を意図している感じ。
すべてのパートを発色よく響かせるところはいつも通りだけど、個々のパートに粘っこさと陰影が加味されている。
そういうコンセプトをくみ取ったのか、録音の質も、明解さよりオケ全体の響きに重きを置いているような。
演奏としては、狙った仕上がりになっているのだろう。
しかし、もっぱら音盤鑑賞の、わたしのような聴き手には、面白みの乏しい演奏・録音になってしまった。
音盤鑑賞専門の人間は、その演奏の絶対的な良し悪しもさることながら、累々と蓄積されてきた音源の中での存在感とか存在価値を考えてしまう。
そういう視点からは、この演奏に付加価値を感じにくい。こういう路線なら、もっと他に良いのがあるから・・・
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