アンセルメによるサン=サーンス交響曲第3番『オルガン付き』

アンセルメは、デッカ・レーベルの看板指揮者のひとりとして、1950年代から60年代にかけて膨大な数のレコーディングをおこなった。
デッカは、録音のクォリティの高さをアピールしていて、ショルティの『指輪』の全曲録音がその典型だけど、アンセルメもレーベルの戦略に乗って名声を高めた一人。
このサン=サーンスの音源は、発売当時、迫力ある録音で話題になったらしい。
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アンセルメは、やや遅めのテンポを設定し、一つ一つのパートの動きや表情を、明晰に聴かせる。
他の複数の演奏の後に聴いても、何かしらハッとさせられる瞬間がある。
フレージングは、しなやかにクッキリとしている。硬くならず、かといって気分に流れることもない。
曲が曲だけに、低音には厚みがあるけれど、あくまでも豊かに広がる質の低音。広々とした空間を感じさせるけれど、濁りや鈍さを感じさせない。
金管がやや強いものの、平明なサウンドバランスで、楽曲の構成とか書法が、透けて見えるように演奏している。
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こういうアプローチの場合、オーケストラがかなりうまくないと、面白くならない。あいにくと、オーケストラの魅力が今ひとつ。
アンサンブルの精度はそれなりに高いけれど、緊張感は全体的に緩め。色彩が豊かということもなく、スリリングだったり軽快ということもなく、パワフルということもなく。全体におとなしくて、やや平板に聴こえる。
たとえば、多彩に展開する第二楽章後半にしても、オーケストラの表情そのものに魅せられる瞬間は無かった。
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