投稿

7月, 2018の投稿を表示しています

アマデウス四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲第15番

イメージ
好感度  ■■ ■ ■ ■ 1962年のセッション録音。全集から。 同四重奏団は、1948年にイギリスで結成されたものの、メンバーのうち3人はオーストリアやドイツ出身のユダヤ系。 1987年に解散した。 1958〜63年に全集をDGに録音。 他に、1950〜1967年に放送局に残された、10番以外の録音の集成が流通している。 :::::::::: 個々のパートの線が強めで、かつ語尾に力を込めるような歌い回し。楽曲を情熱的に、力強く表現している。 といっても、入れ込んで熱くなっているのではなく、統制のもとに、楽曲をそのような音楽と捉え、表現している感じ。 端整な質感はないけれど、勢いが余ったり、乱れることはない。サウンドは適度に艷がある。表現のバランスに、それなりに配慮されている模様。 音を合わせることを優先したら、かなりの精度で合奏できそうだけど、それは彼らの目指す方向ではないのだろう。 :::::::::: とは言え、彼らがこの曲に持ち込んだアグレッシブなタッチは、あちこちで恣意的に響く。逆に言うと、曲調の推移に素直に反応できていないように聴こえる。 たとえば、第一楽章や終楽章での力みっぷりは不自然に感じられて、聴いていて同調できない。活気があるとか、ハツラツとしているのではなく、イキっている感触。 第三楽章は、押しの一手で音楽を無骨に響かせる。一本調子というほどではないけれど、息遣いを操って多彩な表情を作り出す、みたいな感じではない。

パッパーノによるサン=サーンス交響曲第3番『オルガン付き』

イメージ
好感度  ■■ ■ ■ ■ アントニオ・パッパーノ指揮、ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団の演奏。オルガンはダニエレ・ロッシ。 2016年のライブ録音。 パッパーノは、1959年イギリス出身の指揮者。両親はイタリア人。 2005年より、ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団の音楽監督。 :::::::::: 減点法で判定すると、粗の少ない優等生な演奏。 パッパーノの描き出す作品像は、手堅くて確実。程よいテンポの設定だし、合奏を細かく掌握しながら、集合体としての迫力あるサウンドも聴かせる。 質の高い演奏だけど、音楽として雄弁とまでは言えない。硬軟で言うと、特に軟系統の表現力が味気ない。 たとえば、第一部後半とか、第二部の前半から後半への移行の場面とか、表情に硬さがある。浮遊感とか、崇高さとか、柔らかく光が差し込むイメージとか、何にせよ聴き手のイマジネーションを掻き立てるだけの力を感じない。 かと言って、その種の効果を意図的に排除しているようなも聴こえないし。 もともと派手な演奏効果に傾斜している楽曲だけに、柔かい場面で香り立つような表現をやってくれないと、曲全体の印象が安くなってしまう。 :::::::::: オーケストラは、暗めのトーンながら色彩感は豊か。そして、この交響曲を聴かせるだけの技量は感じられる。 とは言え、合奏能力で圧倒するほどキレてるわけではなく、語り口を楽しめるほど表現力豊かでもない。 これまでに蓄積された音源と聴き比べると、いささか地味。

バリリ四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲第15番

イメージ
好感度  ■■ ■ ■ ■ 1956年のセッション録音。1952〜1956年に録音された全集から。 バリリ四重奏団は、1945〜1959年にウィーンを拠点に活動。メンバーは、当時のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の主要メンバーだったらしい。 古いモノラル録音ながら、音質は驚くほどにクリア。 :::::::::: 美音でしなやかに歌う第一ヴァイオリンが、音頭を取っているようだけど、4パートがバランス良く親密なアンサンブルを繰り広げている。 程よく粘るしなやかなフレージングと、艷やかで潤いある響きの組み合わせで、心地よい歌いっぷり。 造形は端整できっちりしているけど、彫りは浅めなので、スムーズな横の流れが際立つ。 流麗でありながら、気分に流されない節度がある。品が良い。 長大な第三楽章演奏時間に差が出やすい楽章だけど、17分弱という標準〜やや速めのテンポ。締りのあるアンサンブルだけど、流麗に手際よく演奏されている。 美音と親密なアンサンブル、そしてツボを押さえた歌心が素晴らしい。気持ちよく楽曲に浸れる。 :::::::::: 場面に応じて、前に出るパートと、それを背後で支えるパートの、役割分担とかその切り替えがハッキリしている。メインのフレーズが際立つように、響きが注意深く整理されている。 そのため、場面ごとの表情がくっきりとわかりやすくて、音楽がスンナリ入ってくる。 ただし、音楽がフレーズの流れに沿って二次元的に整理されていて、耳当たり良くマルめてしまっているようにも聴こえる。 わかりやすさの代償に、音楽が少々軽く薄くなっている。

トルトゥリエによるバッハの無伴奏チェロ組曲(1982)

イメージ
好感度  ■■ ■ ■ ■ 1983年のセッション録音。 トルトゥリエは1914年生まれのフランスのチェロ奏者。1990年に76歳で亡くなった。 この録音当時は69歳。 彼は1960年にも同曲集をセッション録音している。 :::::::::: もたつくほどではないけれど、悠然とした足取りはいささかまだるっこしい。技術的には盛りを過ぎているように感じられる。 演奏者の自己顕示のようなものは感じられず、曲調を素直に描き出すことに徹している印象。 キレは乏しく無骨だけど、息遣いの使い分けは雄弁で、個々の楽曲の味わいを実直に引き出している。 自然体の良さがある。 悠然としたテンポのせいか、(チェロの演奏にありがちな)音を整えるためのタメとかリズムの揺動とかが目立たない。おかげで、造形は整っているし、演奏者のクセが気になりにくい。 素朴なタッチだけど、この組曲集の豊かさを味わえる音源という意味では、なかなか優れ物と感じられる。 :::::::::: 骨太だけど、粘っこさとか重苦しさがなく、もたれない。 全体の佇まいとして、落ち着きや風格と、軽やかな解放感が、自然に両立している。この風情が独特。

ブダペスト四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲第15番(1952)

イメージ
好感度  ■■ ■ ■ ■ 1952年のセッション録音。 ブダペスト四重奏団は、1951~1952年にモノラルで、1958~1961年にステレオで、2回全集を録音している。 この音盤は、レーベルのオリジナル・マスターテープではなく、アナログ盤に拠ると思われる。 ただ、コロンビアの古い録音だと、メリハリを強調した不自然なものであろうから(根拠のない想像)、程度の良いアナログ盤に拠ると思われるこの音盤にも、嗜好品として一定の価値はあるかもしれない。 :::::::::: 引き締まった造形で、端然としている。気分や思い入れによる造形の歪みを一切排除する構え。 締りのある造形は、全体に程よい緊張感を及ぼしているけれど、スポーティーな快適さというのではない。 1961年のステレオ録音も、辛口の引き締まった演奏ぶりだったけれど、こちらの音源に比べると、けっこうほぐれている。 :::::::::: 各パートの線の動きにも緩みはないけれど、それぞれの表情には潤いとか陰影がある。 感情や気分に流されることはないけれど、積極的に感情表現している。 造形を歪めるような大きな身振りはないけれど、音の強弱、呼吸感、アンサンブルの色合いの変化みたいなものに細心の注意が払って、結果的に雄弁に仕上げている。 そんなところに、このグループの底力とかクォリティを感じる。 :::::::::: 特に、全曲の中核をなす第三楽章は、小気味よく15分台で演奏されているけれど、ヴィブラートを多用して、感情のヒダを聴かせる。 普通、これだけヴィブラートを使われるとしつこくなりそうだけど、素っ気ないくらいに潔い造形との兼ね合いでは、表現技法として有意義に聴こえる。 この楽章の、印象的な演奏の一つに仕上がっている。

ブダペスト四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲第15番(1961)

イメージ
好感度  ■■ ■ ■ ■ 1961年のセッション録音。全集から このグループは、ハンガリーで1917年に結成され、1938年から米国に拠点を移し、1967年まで活動した。 ちなみに、この録音の頃には、メンバー全員旧ソ連出身者だったらしい。 1951~1952年にモノラルで、1958~1961年にステレオで、2回全曲録音している。 潤いが乏しい初期のステレオ録音。再生する環境によっては、響きにザラつきを感じるかもしれない。 それでも、十分に鮮明で、奏者たちのやっていることはつぶさに伝わってくる。 :::::::::: 録音当時、メンバーはいずれも60歳前後。50年代初頭の旧全集と比べると、キレは後退しているように感じる。 もっとも、旧全集は、平均以上に引き締まった演奏だったから、少し緩んだ新全集の方がむしろ標準的に聴こえなくもない。 この音源単体で聴けば、クォリティは必要十分と感じられる。特にコンビネーションはうまくて的確。 :::::::::: 味付けとか演出で聴かせるのではなく、スコアに記された音符をあいまいさなく浮き上がらせ、もっばら緊密なコンビネーションで聴かせる。 4つのパートはほぼ均等に聴こえる。ただし、場面ごとにバランスを小刻みに変化させて、表情を明確に打ち出す。メリハリがハッキリしていて、何気なく気分に流れることがない。 そして、メリハリの強さを除けば、個々の表情とかつながりは自然だし、よく練られている。 おかげで、明快であるのと同じくらいに分かりやすい。これがどういう音楽なのかを、過不足無く教えてくれる。 :::::::::: 全曲の頂点である第三楽章も、気負いを感じさせず知的にさばいているけれど、息遣いとか4パートの連携とか、細かいところまで的確に決める。 聴いていて、特別な気分になるほどではないけれど、聴き応えはあるし納得できる。 わたしの知る範囲では、世界を股にかけて活動する弦楽四重奏団の中でも、このレベルで仕上げられるグループは少ないと思う。

アルバン・ベルク四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲第15番

イメージ
好感度  ■■■■ ■ 1983年のセッション録音。1回めの全集から。 同四重奏団は、1回めの全集を1978〜1983年に、2回めの全集を1989年に録音(後者はライブ録音)。 アルバン・ベルク四重奏団は、オーストリアのウィーンの拠点を置き、1970〜2008年まで活動した。 :::::::::: 造形は引き締まっていて、颯爽とした足取り。 タメとかゆらぎとかは必要最小限と言うか、必要最小限未満かも。 呼吸は浅めだけど、細かくコントロールされていて、せかせかした印象や単調さはない。 キレがあってダイナミック。緩急の変化が少ないかわりに、音量の強弱の幅はけっこう大きい。総体的には、十分にドラマティックな仕上がり。 一方、音色は艷やかでしっとりとした美音。そして、4つのパートのブレンド具合は絶妙。4人が対話するというより、一体となって響きを織り上げていく風情。 第一ヴァイオリンが表現の核となって、全体を主導している。雄弁で華々しい。 他のパートは、それを支える感じ。ただし、他のパートが消極的ということではなく、あくまでも連携のあり方。 響きの面でも、高音成分がわりと強めのバランス。そのせいか、ひんやりとした感触が終始つきまとう。 :::::::::: 作曲者の意図より、自分たちのセンスとか流儀を優先している。 楽曲ありきと言うより、演奏者のコンセプトありきの演奏。楽曲を料理しようという目線のアプローチ。 と言っても、彼らの演奏スタイルは、それなりに懐が広くて練られている。恣意的だとか強引と片付けられるほど偏狭ではない。 何よりも、彼らの演奏スタイルは、ちょっとかっこいい。 :::::::::: この音源で、全曲中最も個性的なのが、全曲の中核である第三楽章。15分強という快速の演奏。 といっても、テンポが速いというより、タメを最小限に切り詰めて、フレーズを次々と繰り出してくる感じ。 穏やかに浸るには向かいないかもしれないが、淀みはなく、い回しはしなやかでニュアンス豊か。一体となったアンサンブルが精妙に色合いを変化させる。 作曲者が与えた「病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」というタイトルにはそぐわないかもしれないが、 美しく洗練されていて高品位。 終楽章は、このグループの...

ハーゲン四重奏団によるベートーヴェン弦楽四重奏曲第15番

イメージ
好感度  ■■ ■ ■ ■ 2003年のセッション録音。 ハーゲン四重奏団は、オーストリアのザルツブルクを本拠とする。 1981年に、兄弟姉妹で活動開始。その後、第2ヴァイオリンが入れ替わり、1987年より現在の顔ぶれに。 ドイツ・グラモフォンに第1, 4, 7, 11, 12, 13, 14, 15, 16番をレコーディング。全集にはならなかった。 その後、MYRIOSというレーベルに移って、ベートーヴェンの録音を継続しているようだ。 :::::::::: 個々のパートが艷やかな美音を聴かせる。それぞれの響きは薄めで、響きが被って濁らないように、コントロールされている。 4パートが一体となって響きを織りなすというより、個々のパートの独立性を保ちながら、表情を綾なす感じ。 そして、場面ごとに前に出るパート、支えるパートの役割分担が明確になっていて、小気味よくしなやかに切り替わっていく。 高い技術をむき出しにしない、スマートでチャーミングな立ち振る舞い。 全体として、豊かさとか厚みは無いものの、響きの鮮度は高く、精妙で美麗。 :::::::::: グループが共有する美意識を前面に出している。感覚的な心地良さとか洗練に、思いっきり傾斜した作品像で、聴手との相性は分かれそう。 たとえば、「リディア旋法による、病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」と題された第3楽章は、崇高な気分に包まれるより、シンプルに美しい音楽に浸る感覚が強い。