ハイティンクによるショスタコーヴィチ交響曲第7番『レニングラード』

ベルナルト・ハイティンク指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団。
1977〜1984年にかけて録音された全集の一つ。7番は1979年の録音。


ハイティンクは、1929年オランダ出身の指揮者。2019年に引退。
1967年〜1979年にかけて、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務めた。

私見では、1980〜1981年のどこかで、ハイティンクは巨匠的な風格を獲得した。
ショスタコーヴィチの交響曲全集は、ちょうどその時期をまたいで録音されており、この指揮者に関心がある人にとっては興味深いかも。

私見が正しいとしたら、この第7交響曲は、巨匠的になる直前の録音。
ではそれが残念かと言うと、むしろ反対で、熟れる直前ならではの魅力を堪能できる。


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特定のパートを強調せず、常にオーケストラ全体の響きを意識させるバランスの作り方。そして、明解で歪まない造形。

ドラマ性より、音響造形物として描きあげることに軸足を置いているけれど、全体に覇気がみなぎっている。
むき出しの覇気ではないけれど、第一楽章のクライマックスで聴き手の息を呑ませる程度の迫真性はまとっている。

ハイティンクは、肌理のハッキリしたサウンドを好むけれど、各パートを分解するように聴かせるタイプではない。
オーケストラを一体として豊かに響かせながら、肌理を丁寧に浮き立たせる。そのため、演奏としてはかなり精緻だけど、ディテールの情報量が際立っているわけではない。

そのかわり、ここぞという場面では、精度を保ったまま、マスの響きを沸き立たせ、スリリングにうねらせる。
この、編成の大きなオーケストラを整然とかき鳴らす手腕は、ハイティンクの際立った魅力だと思う。


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ハイティンクその人は、激しい表現を好んで用いる指揮者ではなく、とくに1980年代以降のスタジオ録音では、そういう表現を聴かせる機会は多くない(と思う)。

この音源は、攻めに転じたときの、ハイティングのドライブ力を知らしめる音源の一つ。

そして、成熟に向かっていた時期の音源だけに、クォリティの面で不満ない。アンサンブルは上質だし、曲想の描き分けも的確。

ただ、ハイティングのような響きの作り方のデメリットとして、場面による色調の変化が控えめになりやすい。それを味気なく感じる人はいるかもしれない。

たとえば、第三楽章あたり、陰影は乏しい。もっとも、こういった粘らない、ちょっと格調を感じさせる佇まいも、けっこういいと思う。

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