ヤンソンスによるショスタコーヴィチ交響曲第7番『レニングラード』(1988年)
マリス・ヤンソンス指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
1988年の録音。最後に拍手が入っているけど、一発録りのライブではなさそう。
ヤンソンスは1943年ラトビア出身の指揮者。2019年に亡くなった。
プロデビューはレニングラード・フィルで、1973年からは副指揮者としてムラヴィンスキーをサポートしていたとのこと。
ヤンソンスによるこの曲の正規録音は他に、2006年のロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団との音源、2016年のバイエルン放送交響楽団との音源がある。
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録音された1988年には、師匠とも言えるムラヴィンスキーが亡くなっている。
そういうことが、演奏者の心理にどういう影響を与えたかはわからないが、演奏自体に湿っぽさはない。
テンポは中庸だが、いきいきとしたリズムでスムーズに進行される。個々のパートが明解に浮かび上がり、しなやかな合奏が繰り広げられる。
そうした若々しい表現に、ヴァイオリンパートのしっとり感や、低音パートの厚みなど、ロシア風味がほどほど加味されている。
ヤンソンスは、オーケストラを自分の色に染め上げるのではなく、その持ち味を積極的に活かそうとするタイプだと思うが(染め上げられないだけかもしれないが・・・)、ここでもそんな感じ。
少なくとも、本場の名オーケストラを起用した意義は感じられる。
いずれにしても、若々しい活気と、よく練られたアンサンブルの取り合わせが気持ちいい。
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山あり谷ありのこの曲に対し、場面に即して調子を切り替えており、聴いていて一本調子と感じることはない。
とは言え、他の演奏と比べると、軽快なリズム感が特徴的。そのため、この曲の演奏としては、重苦しさや深刻さが控えめになって、活気が強まっている。
良く言えば聴き通しやすく仕上がっているが、たとえば第一楽章の怒涛のクライマックスあたりは、気持ち良く盛り上がりはするけれど、破壊力は控えめ。
終楽章のエンディングでも、必要以上に大きな身振りはなく、自然な流れの中ですんなり幕を引く。
第三楽章は、粘らず快適なペース。彫りの深い表現とは言い難いが、かと言って素っ気なくはない。内省的とか静けさみたいな気分もちゃんと感じ取らせてくれる。
ここにこの交響曲のすべてがあるとは思わないが、(わたしのように)この曲にハリボテ感を抱く者にとって、なかなか好ましいアプローチだと思う。
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