マタチッチによるブルックナー交響曲第5番(1967)

とりあえず、この演奏には、楽譜の改変とか版の問題がある。
ブルックナーの改訂版に関心が無くても、というか、むしろ関心がないほど、聴きなれないものに、単純に違和感を感じてしまう。
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マタチッチの深い呼吸は、ブルックナーに似つかわしく感じる。大きな構え、深い息遣いで、一つ一つのフレーズにニュアンスを込め、響きの綾を存分に引き出す。
この交響曲から引き出しうる演奏効果を、じっくり吟味された跡が随所に感じられる。そういう意味で、練られた表現を満喫できる。
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第5交響曲は、堅固な構成美を前面に出すアプローチも可能だと思うし、個人的には、そうする方が、作曲者の構想に近いような気がする。
ただ、敬虔な雰囲気とか、息の長いフレーズとかがふんだんにある作品なので、後期の交響曲のように演奏しても、それはそれで演奏効果が上がるし、実際そういうアプローチの演奏は多い。
マタチッチもそっち系で、幻想性とかロマン性を引き出す方向で聴かせる。
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チェコ・フィルハーモニー管弦楽団は、金管が軽くて伸びやか。低弦は広がりはあるけれど、実体感薄めでうねらない。木管には湿り気があって、抒情的な風合いが強い。
要するに、透明感、繊細感、抒情美が際立つ。スケール感はあるけれど、聴き手を圧倒したり包み込むような質なサウンドではない。
マタチッチは、そういうオーケストラの持ち味を肯定的に活かしていて、そのことが演奏全体の色調に大きく影響している。
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